2018年03月13日

自分を信じる

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江原百合子 22歳夏

自分には夢がある。

プロゴルファーになることであった。


小さい頃から父に教えてもらい。

小中高とゴルフスクールに通っていた。

アマチュアの大会に出たことも幾度かあるが、成績は今ひとつであった。

「自分には才能ないのかな。」

と諦めかけた時もある。

しかし、ゴルフの夢は捨てきれず、ゴルフで有名な大学に入った。

4年間、レギュラーにはなれなかった。


父には、

「諦めて、どこか就職しなさい。そして嫁にいけ。」と言われていた。

ゴルフ部のコーチには、

「君は、ゴルフの技術はレギュラーでも上位に行くだろう。しかし、何かが足りない。

マインドの部分で最後に逃げるところがある。

優勝がかかった最後のパットを外すタイプだ。」

「プロにとってこれは、致命的な部分だ。」とはっきり言われた。


これで最後にしようと自費で地方のプロアマ選手権に出場した。

予選は通過した。決勝も調子良く、1位に1打差まで追いついた。

「よし、優勝する。」と思った。

17番ホール、ボールを大きく右に曲げてOBになった。百合子は焦った。

ドライバーには自信があったし、今日はドライバーの調子もよかったのに

突然、曲がった。アイアンに持ち替えて、打ち直した。

その後もバンカーに入れるなどして、結局最後はトップと8打差の10位に終わった。

17番、18番で8オーバーだった。

「もったいない。あれがなければ、もしかして」と唇を噛んだ。

終わった。残念だけどここまでか。諦めようと帰り支度をしていたときに

「残念だけど、諦めよう。と思っているでしょうあなた」と声を掛けられた。


プロコーチの大下朋子プロだった。

「あなたには、才能があるわ。ただ、決定的な欠陥がある。」

「私のところに来る気ある?。本当にプロになりたいのなら教えてあげるわ。

ただし、厳しいわよ。本当にプロに成りたかったら、ご両親と相談して私のところへ来なさい。」と思いも寄らない声をかけてもらった。

大下プロは、最近ではあまり聞かないが、かつては、多くのプロゴルファーを輩出させた名伯楽である。百合子は喜んだ。


父親は、反対した。

「プロゴルファーになるには、何千分の1だぞ。まして、金を稼げるプロは、その何百分の1だ。お前には、無理だ。お嬢様育ちの遊びのゴルフでは、プロにはなれない。」

百合子は、説得した。何度も、何度も。最後は、父も折れた。しかし条件が出された。

3年かけて、プロ試験に合格しなければ、諦めろ。」


次の日から大下プロの家で、住み込みで練習生になった。練習生は、百合子のほかにいなかった。プロは独身だった。当然、住み込みだから、朝は、5時起床、家の掃除、食事、洗濯、など家事はすべてやらされた。

「ちょっと違うんじゃないの。いつになったら教えてくれるのよ。」

「これじゃ、体のいいお手伝いさんだよ。」と百合子は思った。特に冬の朝はキツかった。

いつもママに起こされていたし、大学は、大体午後から授業に出ていたくらい。朝が苦手だった。それが、今では自然に5時に起きられるようになっていた。


プロが「そろそろ、練習をしようか。その前に言っておく。お前の最大の欠点は、精神力だ。でも精神力の弱いトッププロもたくさんいる。いるが、それを気の遠くなるくらいの練習量でカバーしてきた。そして、自分に自信を付けてきた。大事なのは、自分を最後まで信じることが出来るかどうかだ。自分を信じて、平常心でプレーが出来るかどうかが、トッププロと2流プロの違いだ。あの時の17番、お前は優勝を意識しただろう。意識したために、必死でやっていた心に欲が出た。それでフォームがわすかに狂い、OBになった。

その後は、もう精神的に混乱していた。」図星だった。返す言葉が無かった。

「でもお前には最大の武器がある。ドライバーじゃない。パターだ。パターだけは、才能がいる。お前には、その才能がある。だから私はお前に声を掛けた。弟子を取らないつもりでいた私から。」


それから、火の出るような猛練習が始まった。毎日、来る日も来る日も、手には豆ができてそれが潰れてタコになって、タコの上に豆ができて、それが潰れてタコができるくらい練習した。


百合子 25歳夏

彼女はプロテストを受けていた。最終選考会まで残った。トップの位置にいた。

1打差だ、ミスは許されない。

17番ホール。百合子は、ティーアップした。

ドライバーを握っていた。百合子は、思った。

「自分を信じろ。大丈夫、私には出来る。」


(了)

Masayuki Simomura 作



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2018年03月12日のつぶやき






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