2018年03月14日

ある夫婦の場合

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伊藤伸介60

妻 信子56

どこにでもいる普通の夫婦に見える。

今日は、伸介の退職日だ。

彼は、地方銀行の支店長として役目を終える。

「いってらっしゃい、今日までご苦労様。」

「帰って来たら、びっくりするわよ。」

「えっ、どんなご馳走が待っているんだい。」

「それは、ヒミツ。」


伸介は、仕事人間だった。

生真面目というか。仕事に忠実だった。

皆勤で遅刻も有給休暇も一回もなかった。

残念ながら、本店勤務がなかったことが、彼の悔やむ所であった。

転勤の連続であった。

最初は、家族も一緒に転勤していたが、家も購入し、子供たちも成長するにつれて

転校は、可哀想だということで、単身赴任に変わった。

彼は、自分の仕事について、やりきったという満足感で一杯だった。

しかし、家族には、スマナイと思っていた。

息子が二人いるが、それぞれ独立し、家庭を持っている。

たまの休日には、家にもやってくる。

息子たちの入学式も卒業式も運動会も知らない。

どうゆう風に育ったかも知らない。

ほとんど子供を遊びに連れて行った覚えがない。

だから、今では、どこかよそよそしい雰囲気が流れる。


彼は、月に一度は、金曜の最終で家に帰り、日曜の夜、夕食を家族で取ったら戻っていた。

しかし、勤務地が遠い場合は、それも出来なかった。

結婚して32年そんな生活が続いた。

しかし、本当に忙しかったのだ。

一度だけ、浮気をしたことがある。

妻にばれて、平謝りをして彼女と別れた。

妻は、あっさり許した。

去年、都内の支店に転勤になり、長い単身赴任生活は終わった。


彼女は、手に職をつけた。

手相、姓名判断、四柱推命と勉強した。

それぞれ認定書をとって、自宅で開業した。

1日二人程度であったが、よく当たると評判になり、セミナー等を開催して儲かっていた。

息子二人を自分独りで育て、大学までやらした。

彼の給料は、十分であったが、質素に暮らし、貯金した。

ある計画のために。


彼女には、男がいた。

夫が単身赴任になってからだから、10年近くになる。

男にも家庭があった。

男の家庭を壊すつもりはなかった。

会うのは、いつも平日の昼間である。

セックスだけの関係である。男との関係は、いまでも続いている。

セックスの歓びは、彼に教えてもらったようなものである。

夫とのそれは、全て芝居であった。味気ないものであった。


夕方になり、退職のセレモニーが行われ、花束を貰って伸介は照れくさかった。

悠々と帰宅すると彼は、驚愕した。

家財道具が一切無かった。テレビもソファーも、本棚も。

彼が買った本が、うず高く積まれていた。

壁に架かっているエアコンだけは、あった。

部屋の床に手紙が置いてあった。

「今日で、あなたと離婚させてもらいます。どんなに今日の日を待ったか。

退職金とその家は、あなたに差し上げます。同封してある離婚届けに押印して

区役所に提出してください。もう会うことも無いでしょうけれど、今までありがとうございました。 信子」


(了)

Masayuki Simomura 作

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2018年03月13日のつぶやき






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