結城美保16歳 。
高校2年生、彼女がいま凝っているのが、引き寄せの法則である。
強く願えば叶う。10年後素敵な男性と結婚し、幸せな家庭を築く。と高校生らしい
願いを強く、強く願っていた。
10年後彼女は、東京の広告代理店に就職していた。
大手のクライアントを多数持つ大手の広告代理店だ。そこは、完全な男社会で、彼女のしごとは、コピー取り、企画書の清書、会議の資料作りと雑用事務ばかりだった。
しかし、制作会議には、出席させてもらえた。
時には、深夜まで続いた。
時々、彼女も提案するが、すべて却下されてしまった。それに対して彼女はめげなかった。
「どうせそんなもんだろう。」自分もいると云う事をアピールしただけ。
仕事に関するモチベーションは、全然なかった。彼女の願いは、素敵な男性と結婚することだけ。
ある時、大手自動車会社から女性向けの軽自動車のCMの依頼がきた。
例によって会議が行われた。中々意見がまとまらなかった。課長が、美保に意見を求めてきた。
「女性向けの車だから、女性としての意見を聞かせてほしい。」
「はい、基本的に女性も男性も無いのですが、女性は、かわいい物に心が惹かれます。
それで、いっそ全編イラストでいったら、どうでしょう。」
と美保は、とっさに応えた。
「イラストか。悪くないな。」
結局、美保の意見が通り、イラストとリアルの女優の組み合わせできまった。
担当も美保になった。美保としては、初めての仕事だった。
俄然忙しくなった。イラストは、以前から大好きだったS女史に依頼した。大御所である。
何度も足を運んだ。その間、制作会社から大筋の絵コンテが出てきた。気にいらなかった。
やり直しを命じた。そこでも揉めた。三顧の礼を尽くして、S女史が承諾した。S女史にとっても初めてのCMだった。美保は、コンセプトを説明した。2,3チェックが入り、
すべてを任せて欲しいという要望だった。美保にとっては、有難かった。
撮影に入り、新進気鋭の女優だった。撮影は順調にすすみ、予定より早く終わった。
出来あがった映像を見て、S女史も美保も最後のセリフが気に入らなかった。
なんとなくまとまっている感じだった。ここで、議論が交わされた。いろんなフレーズが出たが、今一だった。女優の次の撮影の時間が押してきた。今日中に終わりたい。
美保は思い切ってS女史に自分の本音を言った。女史は、微笑んでOKがでた。
CMは、S女史の世界感が出て、好評だった。最後のセリフは、「結婚したい。」だった。
これが当たって、流行語にもなった。
そのころ、美保は二人の男性からほぼ同時に告白された。
一人は、スポンサーの若手社員Aで、長身で、結構いい大学も出て、会社のホープだった。
もう一人は、撮影会社のADのBで、冴えない格好で体形も良くなかった。
美保は、思った。10年前の願いが叶ったのか、分からなかった。取り合えず、二股をかけた。Aは、自信たっぷりで、気遣いもさりげなく、デートをしていても楽しかった。
美保は、「こいつ随分、女性の扱いに慣れているな。結婚しても。浮気の可能性大。」
Bは、無口でなにをするにも自分で決められなかった。しかし、美保に対しての優しさは、伝わってきた。「こいつは、出世は無理だな。しかし、家庭は大切にしてくれそうだ。」
美保は、悩んだ。これは、私自身が引き寄せたんだ。私自身の心の中が、具現化したんだ。
美保は、決断した。二人には、お断りをした。
「今の自分は、過去の自分が作ったものだ。そうしたら、将来の自分の姿を決めるのは
今の自分だ。」
「どんなストーリーになるのだろう。」
(了)
Masayuki Simomura 作