志賀直樹は、A商事の大阪支社に転勤になって2年が経つ。
直樹には、恋人がいた。
吉野礼子24歳、直樹より2歳年下だ。
合コンで知り合った。
たまたま隣の席に座った。
美人というよりは、男好きする顔立ちである。
彼女は、N物産の経理をやっているそうだ。
「お名前聞いてよろしいか。」
「はい、吉野礼子と申します。24歳で、N物産の経理部におります。」
「N物産て大手ですから、忙しんじゃないですか。」
「いいえ、私は、主に雑用ですから、コピー取りとか、資料作成の手伝いとか
そんな感じです。お茶汲みは、基本的に禁止ですから、お客様が見えた時だけ
順番制でやっているんです。」
「僕は、志賀直樹といいます。A商事の営業部にいて、毎日飛び回っております。」
「A商事の方が、大手じゃないですか。海外勤務なんかもあるんですか。」
「そうですね。可能性としては、ありますね。海外に15社支店がありますから。」
「今は、中国が多いかな。」
「僕も時々中国へ出張に行くんです。」
二人は意気投合し、メアドも交換し、次のデートの約束もした。
何回かデートを重ねるうち、男女の関係になっていた。
どちらかというと、直樹の方が積極的であった。
あるとき、ふと直樹は気付いた。
デートの日はいつも木曜日が多いことに。
「俺たち、いつも木曜日にデートが多くないか。」
「そうかしら、わからなかったけれど、ただ土日は、サークルとかスクールに通っているので、今のところダメなのね。あと皇居周りのランニングとかしているから、結構1週間予定がつまっているのよ。」
「だからじゃない。」
直樹は、その時は納得した。
それに彼女はあまり私生活を話したがらないことにも気付いた。
熊本から上京して、こちらの大学を出て、N物産に就職したことぐらいだ。
直樹は、聞きたかったが、つまらん男と思われるのが嫌なので、敢えて聞かなかった。
直樹は、大阪支社に転勤になった。
「俺、大阪支社に転勤になったよ。」
「えー、いつまで。」
「早くて3年遅くても5年かな、それで本社に戻れば、係長かな。次は、海外転勤で
アメリカなら取締コースだね。」
「本社に戻れなければ。」
「まっ、コースから外れたということで、地方の営業所周りかな。」
それから遠距離恋愛が続いた。
金曜の最終で、東京に着き、日曜の最終で、大阪に帰るパターンが続いた。
礼子は、僕のためにサークルもスクールも辞めたと言っていた。
二人で、彼女のマンションで過ごすことが多かった。
DVDを見たり、ゲームをやったり、後はセックス。彼女は燃えた。
帰る時は新幹線のプラットフォームまで送ってくれた。
彼女は泣いていた。
長いキスをした。
発車のベルがなるまで。
普段は、メールかラインで会話をしていた。
しかし、だんだん回数が減ってきた。
直樹も忙しかったから、気付かなかったけれど、彼女からの返事が来なくなった。
今になって思えば、木曜日しか会えないなんて変なことぐらいわかるはずだった。
思い切って、N物産に連絡した。
「お調べしましたけれど、当社では吉野礼子という職員はおりません。」
(了)
Masayuki Simomura 作