橋本 純一21歳
都内の某有名私立大学4年生
ラグビー部キャプテン
就職は、まだ決めていない。
3年の時点で数社内々定は貰っている。
しかし、自分にとって就職することが疑問に思えてきた。
一生サラリーマンで終えたくないと思い始めてきたのだ。
イヤミな様だが、いずれも1流企業だ。
これからの日本を考えたとき、企業に就職して、定年を迎えて、年金を貰えるなんて本気で思っている能天気な奴は、いないだろう。
好むと好まざるとに関わらず、日本も世界の潮流に巻き込まれて、大きく変化していくだろう。日本も大きく舵を切る時代になってきた。
そんな中、ダニエル・ピンクは、フリーエージェントの社会が来ると言っている。
企業から個の時代に移ると予言しているのだ。
だから今のうちに起業するか、就職するか悩んでいる。
じゃ、何で起業するかだ。インターネット関係か。
ここも流れが速くて、今日新しくても、明日には古い情報となっている事が多い。
しかし、当たれば大きいし、ハードルが低い、だから誰でも参入出来る利点がある。
就職しながら、副業で始めて、目処が立ったら辞めて本業になるという都合のいい選択もある。
決断力のある純一も悩んでいる。本音は、今からでも起業したい。
でも、何で起業するかと、資金がない点に悩んでいる。
ある日、同じ大学の理工学部の同級生とたまたま学食が、同じテーブルになった。
そいつが、同級生であることは、こちらが声を掛けるまで知らなかった。
名前は、木村卓也。名前を聞いて「ホント?」と聞いてしまった。
「いつも言われるんだ。女子学生には、馬鹿にされるし、いい迷惑だよ。」
「就職すんの。」と聞いた。
「いや、大学に残る。研究対象が、見つかったから。」
「どんなの」
「エネルギー問題を一気に解決出来る奴。」
「へえ、どんなの教えてよ。」
「難しいけれど、簡単に言えば、植物の成長速度を電気エネルギーに変換して、・・・・・・」
「後の方は、分からなかった。」
彼は、それに1時間くらい話した。
「・・・という理論なんだ。」
「えっえー凄いねー。それで世界のエネルギー問題も一気に解決だね。」
と適当に誤魔化した。
「そうなんだ。これが、発展途上国にはお宝が一杯だから、最貧国が、一気に富裕国になる可能性もあるということさ。」
「それって、どんな植物?」
「わかんない。」
「これから探す。候補はたくさんある。」
「実現の可能性はあるの?」
「ある。」とはっきり言い切った。
純一は、ピンと閃いた。
「あのさ。俺とタッグ組まない。」
「企業化してさ、世界中に売るんだよ。」
卓也は、躊躇した。
「商売のために、研究しているんじゃないんだ。」
「でも、お前のその研究が、成功したらどこかの大手が、買いにくるぜ。」
「エネルギーだから。巨万の富を生むからな。」
純一は、子供がおもちゃを手にしたかのように目をキラキラさせながら説得した。
「やろうよ。面白そうじゃん。うまく行くんだろ。」
「あー上手くいくさ。俺の研究だから。」
「じゃあ決まった。早速、植物を探しに行こうぜ。」
純一は思った。
「上手くいくかどうかを今心配しても意味がない。やってダメならそれでいいじゃん。
一度っきりしかない人生だもの、夢に賭けてみたい。」
ふと、今まで走ってきた自分の人生の休息みたいに気が楽になった。
「問題解決を図るよりも、新しい機会に着目して創造せよ」
ピーター・ドラッガーの言葉が浮かんだ。
(了)