2018年03月20日

【愛憎】



山本逸美は、アパレル会社のデザイナーをしていた。

美大を出て4年目。中堅どころで、バリバリ仕事をこなしていた。

彼女の才能は、誰もが認めるところで、途中何回もヘッドハンティングされていた。

でも彼女は、それらを断った。チーフデザイナーの夏木優子のデザインテクニックを

どうしても自分の物にしたかった。デザイナー魂がそうさせていた。


ある日、同窓生の結婚式があり、2次会までは出席していたが、何か急に詰まらなく成り途中で帰ってきた。彼女の幸せそうな顔が憎たらしく見えてきたので、帰ってきた。

いつものバーに立ち寄った。いつからだろうこの店に来るようになったのは、確か友人がこの店を知っていて、連れて来て貰ったのが、最初だと思う。

シックな木目調の内装で、静かにJAZZが流れている。カウンターに座って、ロックを飲む。バランタインが彼女のお気に入りだ。客層も上客に見えるし、静かに、瞑想にふけるように酔って行く自分に酔っていた。


その日も同じカウンター席に座って、静かに飲んでいた。バランタインの芳醇な香りと優しい舌触り、そして喉越しの良さ、いい酒はこうでなくっちゃ。と心の中で思っていた。

「お一人ですか。」

「ええそうですけれど。」

「そうしたら、暫く僕と飲むのを付き合ってもらえませんか。」

「構いませんが。」

「有難うございます。今日は、僕に奢らせて下さい。」

「まあ、有難うございます。」

男が急に隣へ座って来た。よく見るとイケメンで逸美好みの顔立ちだった。

「お幾つですか。」

「僕ですか。26です。」

同じ歳か。それからかれの話が始まった。

仕事の話、逸美の事、そして自分の夢の話を延々と話した。

逸美は、男の夢の話を聞くのが、好きだった。夢のない詰まらない男が多すぎる。

ただ逸美は、男性経験が少なすぎた。中高大学と全部女子校だった。

男性に接する機会が、極端に少なかった。ある程度男性と接していると、この男の夢の話に毒があることに直ぐに気付いたろう。


気が付いたら、朝だった。逸美は、ベッドのなかで、裸で寝ていた。

お酒の所為もあるが、結婚式のやっかみも影響したと思う。

逸美は、昨夜は激しく燃え、何度もイッた。

その日から逸美は、その男と同棲し始めた。むしろ。男が転がりこんできた。

暫くは、上手く行っていた。逸美も結婚を意識し始めた。

仕事は順調だった。徹夜が続く時もあった。逸美はヘッドハンティングにあっても断る

理由の一つに、優秀なパタンナーがいた。名前を谷口逸美といい同じ名前だった。

そのため社内では、W逸美と呼ばれていた。実際、仕事を一緒にすると、逸美のデザインイメージ通りの作品が出来上がった。逸美はパタンナーの逸美の才能に舌をまいた。

彼女がここまで来られたのも、パタンナーの逸美の功績も大きかった。一度、目立たないパタンナーのために家で鍋パーティをしたことがある。勿論、谷口逸美のそこにいた。

ただ男も一緒にいて、場を盛り上げてくれた。


逸美は、男の夢は、ウソである事に今頃気づいた。でも愛していた。それが心の支えだった。転職もたびたび繰り返し、そのうち定職もつかないようになってきた。喧嘩が絶えない様になってきた。彼女に金も借りるようになってきた。外泊も多くなってきた。そんな時に限って、逸美をいきなり抱いた。激しいキスが、タバコと酒の匂いで辟易していた。

シャンプーの匂いが毎回違う事に気づいた。その奥に女の匂いを感じた。女の勘で浮気をしてと思った。しかし、逸美の身体は何度もイッた。心の奥で愛していたから。

ある時から同じシャンプーの匂いが続いた。他に女が出来たと思った。

彼を問い詰めた。激しく問い詰めると彼の口から信じられない女の名前が出てきた。

谷口逸美である。逸美は、錯乱した。最後の壁ががらがらと崩れていくのがわかった。

もうダメだと思った。結婚、何それという思いだった。

会社で逸美を問い詰めようとしたら、彼女は、3日前に辞めて、いまは、どこかの会社の事務員をしているらしい。逸美が海外出張している間だ。裏切られた。彼女は落ち込んだ。

「もう別れよう。」そう思った。


(了)


Masayuki Simomura 作

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2018年03月19日のつぶやき






















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